彫刻家・堀内正和さん

堀内正和さんとの出会いは、愛宕山画廊が銀座7丁目の時。ご夫婦そろってある作家の展覧会に足を運んで差し入れに十割そばを持参し会場の皆に振舞っていた。とても優しそうなそれでいて一寸頑固そうな雰囲気に彫刻家の素顔があった。画廊主に紹介され、堀内さんの作品で“ましかくともえ”が話題になり、それが動くと面白いではないかという話しになった。すでにその作品はモニュメントで大きなものが存在していたが、動くものではなく幾何的要素で姿を変えるとても興味深い作品だった。堀内さんは、幾何学が好きなようで多くの作品に仕掛けが施されていた。聞くところによると、すべて炬燵の上の机上の幾何学と寸法計算から始まり、可能性を模型を作って確かめるという彼独自の方法論によって生み出されていた。そのほかにも数点うごく要素が面白そうな作品について彼自身の熱弁がくり広げられた。私が、電動仕掛けの作品を作ることを知っていた画廊主が、堀内さんの作品を動かしましょうと、堀内さんを口説いたのがきっかけで、”ましかくともえ”の製作を依頼されることになった。そのほかにも数点、電動式ではないが、観覧者が手にとり、堀内さんの作品が楽しめるような動く彫刻ということで作品作りに取り掛かることになった。打ち合わせは、年末の原宿表参道・堀内さんのご自宅で画廊主兄弟を含め4名で猪鍋をつついて行ったことを覚えている。ご自宅は、奥様が開業している耳鼻咽喉科であり、玄関先には”のどちんこのあな”がおかれており、堀内さんのユーモアとご夫婦の仲睦まじさが伝わってくる。猪鍋が始まると、食卓テーブルの中央に置かれたポータブルガスコンロの位置がどうにも正しく置かれていないようで、食卓準備をしている画廊主兄弟へすかさず注文が入る。「あと5ミリ左へ寄せて」と堀内さん言う。いつものことなのか兄弟は、「これでよろしいでしょうか」微笑みながら、堀内さんの指示を請う。(後1ミリ)とでも言いそうな顔をして、「しょうがない、それでいいだろう」と。私は、堀内さんの性格をよくわかっていないのだが、可笑しいやり取りににやけてしまう。やはりこれぐらい几帳面でないと、幾何学仕掛けの作品は生まれてこないし、楽しく作れないのかもしれないと。私のはやる気持ちは、堀内さんをどうやって驚かそうかと電動仕掛けのことへ向かっていた。それは、近接赤外線センサーで人の往来を感知して、自動的にスイッチがON/OFFし、回転精度を高めるためにマイクロフォトセンサーで回転角度の検知制御を行い、送電経路や、信号経路が彫刻そのものにはないような、生き物のような仕掛けだった。その上観覧者も驚かせたかったから、近接スイッチで起動する15秒タイマーを内蔵させ、スイッチがONの状態から60度だけだけ稼働し、その後停止するが、観覧者がその場から離れなければさらに15秒後に60度だけ再稼働する制御を考えた。内蔵するモーターは、小型のインダクション24Vのモーターでできるだけ動きの速度を遅くするために変換ギアを搭載させる。彫刻に内蔵されたマイクロフォトセンサーからの信号は、無電圧接点で処理して三本足の彫刻から24Vの直流プラスマイナスと信号を取り出すことにした。ここで、配線などが見えては野暮だから、台座に銅の棒材を仕込み、彫刻側の通電のための端接点に一目見てわからないような仕掛けを施した。この彫刻の面白さは、動く彫刻が持ち上げられる事で、なんで動くのかの不思議を味わってもらうことで構想は出来上がった。

数か月後、堀内さんから依頼された作品数点が完成し、愛宕山画廊において「堀内正和彫刻展」の開催。その中に電気仕掛けの彫刻他数点がお披露目となる。作品が完成するまで堀内さんには一度も見せておらず、当日電気仕掛けの彫刻を見るや否や、顔の前で両手をたたきながら大はしゃぎしてくれる。そのはしゃぎっぷりは、満面の笑みで本当にうれしそうである。何度も作品の前を行ったり来たり、すぐには動かない彫刻に「あれ、動かなくなったの?」と一言。ところがちゃんと15秒後には、動き出し「動くね!」と。さらに彫刻の前に覗き込むようにしていると、15秒復帰でまた動く。「堀内さん持ち上げられるんですよ」と私が台座から作品を持ち上げると「中に電池でも入っているの」と不思議がる。彫刻の三本の脚には、通電用と信号用の端接点がり、定位置に置かないと起動できないので、台座の上に慎重において見せる。どうして動くのか?どう制御するのかは最期まで考えていたようだ。

そんなことを繰り返していたら、堀内さんから「もうこれは、僕の作品じゃなくて君の作品だね」と。うれしい反面、堀内彫刻の哲学に学ぶことがあったから生まれた作品なのであり、少し困惑したが最高の称賛を頂いたことに感謝した。これが、私の一つのスタイルであり、作家同志でしかわからない本当のコラボレーションいや、彫刻哲学の継承ではないかと今でも考えている。

今取り組んでいることはそんな偉大な先人たちに学ぶ要素から、作品としての回答書を残す作業に専念している。

堀内正和さん、ありがとうございました。

こんなにもやりがいがある彫刻哲学を人生の糧に出来たことは本当に幸せだと感じている。わがままを許してくれる家族にも感謝しなければならないのだが。笑

恐惶謹言

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